帝王切開は必要な処置ではありますが、近年帝王切開率の増加が世界的な問題となっています。2000年と2015年とで世界の帝王切開率を比較すると、約2倍になっているといわれています。

平成30年の愛育病院での総分娩数は1846件で、帝王切開率は14.9%でした。
現在の日本の平均では20%弱といわれていますので、全国的な水準より低い値です。
しかし、単純に全体の帝王切開率を比べるのは適切ではありません。リスクの高い分娩を取り扱えば、率は上がります。


WHOは母児の予後の観点から、理想の帝王切開率が10-15%と掲げており、帝王切開率に関して、Robson classificationを用いた分類を行うことを勧めています。

Robson classificationとは、全分娩を経産回数、胎児数、胎位、分娩時週数、自然陣痛発来の有無、既往帝王切開術の有無の6項目を用いて10群に分類する分娩分類方法です。

この分類の中で、「単胎/頭位/正期産/初産/自然陣痛」のグループの帝王切開率がもっとも重要だと言われています。初産婦さんの帝王切開率が上がれば、次回の分娩も帝王切開になる可能性が非常に高くなるからです。

平成30年の当院の帝王切開率を大阪の総合病院、東京の大学病院、カナダ5州、アイルランドの三次周産期医療機関と比較してみました。施設の実力をもっとも顕著に表すのが「初産/自然陣痛」の帝王切開率といわれています。グラフ一番左の群ですが、愛育病院は4.2%と適正とされる10%を大きく下回っています。

当院で帝王切開率を減少させるための大きな要因が麻酔分娩と鉗子分娩です。お産の進行具合をみながら必要に応じて麻酔を導入することもしばしばあります。九州で2番目の分娩数からくる経験の豊富さと医師をはじめとしたスタッフの層の厚さも貢献しています。

「お産」は妊婦さんが主体となって、助産師、医師、パートナーや付き添いの方の支援など多くの人関わりあって作り上げる総合芸術だと考えます。中でも産婦さん-助産師-医師の連携が最も重要です。

愛育病院の伝統に裏打ちされた「お産」に対する姿勢、分娩取り扱いの成熟度がこの結果を生み出しています。
(院長 川俣)

帝王切開率

帝王切開既往妊婦さんの経腟分娩(TOLAC)について

帝王切開既往妊婦さんに試験的に経腟分娩を図ることを Trial of labor after cesarean delivery (TOLAC) といい、それが成功した結果を Vaginal birth after cesarean delivery (VBAC) といいます。


愛育病院はTOLACを受け入れている数少ない施設のひとつです。
それは、緊急時の対応が十分可能である証左でもあります。
TOLACを選択しても良い妊婦さん側の条件はいくつかありますが、施設側にも緊急帝王切開のための医師をはじめとするスタッフや設備が確保されていることなどの条件があります。


当院の外来には他院より紹介されてTOLAC希望の患者様がしばしば受診されます。
問診のはじめに、なぜTOLACを希望されるのか?とお聞きすると、

  1. 骨盤位など、陣痛を体験せず帝王切開になったので、陣痛を経験したい
  2. 1度目の帝王切開の印象が悪かった
  3. とにかく自然なお産がしたい、といった様々な思いを拝聴することができます。

TOLACのリスクをお話していくと、帝王切開を選択される妊婦さんが多くなりますが、その中で前回の手術の印象が悪い方に対しては特に、どこに問題があったのか、術中なのか、術後なのか、どうしたら前回よりも改善されるのか?を検討していきます。

痛みに関するものであれば、麻酔法および術後鎮痛に関して、画一的なものでなく、それぞれの症例に応じて「テーラーメイド」な工夫を考えていきます。

「帝王切開」のハードルが高すぎて妊娠さえ躊躇してしまう、という患者さんもいらっしゃるかもしれません。
少しでもそんな方の力になれれば嬉しいです。
(理事長:川俣)